photo まるで黒い戦闘機 イトマキエイ
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 モルディブは、インド洋の真ん中にある。山も川もなく平らな島々は、地球温暖化で水没が危惧(きぐ)されている。
 その島が雨期に入った6月、水深25メートルの海に潜った。一緒にいたダイバーたちが、残り少なくなったエアを心配して浮上し始めた。海底に一人残った私は、海を独占できる楽しさを味わっていた。
 すると、遠くの方から黒い固まりが向かってきた。固まりがどんどん大きくなり、目の前が覆い尽くされた。カメラを構えた手に力が入った。
 30匹を超えるイトマキエイの大群が、空を飛ぶ鳥のように目の前を横切り始めた。沈黙の世界が急に騒がしくなる。力強いはばたきが、海水をかき分けて進む戦闘機のようにも見えた。一瞬の出来事だったが、世界各地の海底通いは、この海での体験が出発点になった。